大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(ツ)38号 判決

次に、第二点の残りの部分(上告理由書九枚目表一二行目以下の部分)につき判断する。

論旨は、原判決は、上告人の権利濫用の抗弁を排斥する理由中に、上告人が(C)地の所有権移転登記義務を履行しなかつたため、被上告人は同地の所有名義を取得することができなかつた旨判示したが、(イ)上告人は、前記調停成立後被上告人にしばしば登記申請手続をなすべき旨の申出をしたにかかわらず、被上告人はこれに応じなかつたものである。のみならず、被上告人は、昭和二九年中上告人に対し(C)地等の所有権移転登記手続請求訴訟を提起し、その勝訴判決が同三〇年五月中確定したので、爾後単独で右手続をなしうることとなつたにかかわらず、自らこれを怠つているものにすぎない、というのである。しかしながら、右(イ)(ロ)の事実はいずれも上告人が原審において主張しなかつた事実であるから、これに基いて原判決の当否を論ずることは許されない。もつとも、上告人が原審において提出し、その成立に争のない甲第一号証の一、二によれば、右(ロ)の事実をうかがいえないことはないが、たとえ所論判決が確定し爾後被上告人単独で前記登記手続をなしうるに至つたとしても、それだけで直ちに被上告人の本件(C)地の引渡請求を権利濫用と断定すべきではない。思うに、農地の賃借権の設定は、知事の許可または農地委員会の承認を受けなければこれをなすことをえず、右許可等を受けずにした賃借権の設定が無効であることは、前記農地調整法第四条の明定するところであつて、右法律はその後農地法施行法第一条により廃止されたが、農地調整法施行当時になされた賃借権の設定で知事の許可等を受けなかつたものは、農地法第三条により改めて知事の許可等を受けない限りその効力を生ぜず、しかも当該賃借権の設定が調停上の合意としてなされた場合でも右の理を異にしないものと解すべきであるから、未だ知事の許可等を受けないことにつき争ない本件(C)地の賃借権の設定が無効であることは明かである。そうであるとすれば、被上告人が所有権に基き上告人に対して右土地の引渡を求めることは、もとより正当な権利の行使といわなければならない。もつとも、被上告人がもし上告人の右(イ)の主張のように上告人の要請にもかかわらず知事の許可等の申請手続につきその協力を拒絶し、または進んで右手続を妨げる等の事実があつたときは、賃借権設定の無効を理由とする被上告人の土地引渡の請求をもつて権利濫用と解すべき余地がないとはいえないが、それらの事実は原判決の確定しないところであるから、被上告人の(C)地の引渡請求を権利濫用と認めるには足らず、したがつて、これと同趣旨に出でた原判決の終局の判断は、これを維持するのが相当である。

(渡辺葆 牧野 青山)

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